介護は重労働という言葉を、みなさん一度は聞いたことがあると思います。たしかに、体力的にハードなイメージがありますし、介護職の8割が腰痛持ちというデータもあることから、
「介護は重労働」
この言葉を否定することはできません。
最近は男性介護士の進出も目覚ましいものがありますが、まだまだ女性の割合が高く「女性の職場」。
そのため、数少ない男性介護士が出勤していると、より力が必要な場面では男性にヘルプの声が上がることもありますが、基本的には男性であれ女性であれ仕事内容に違いはありません。
そんな重労働である「介護」という仕事。たとえば、いくら介護士という仕事が好きだとはいえ、体を痛めるなどの自己犠牲のもとに成り立つような仕事となれば、続けること自体が難しくなってしまいますよね。
しかし、介護士として何十年も働いている方や、体力的にみても不利と思われる小柄な女性、60代ときには70代の介護士の方がバリバリ働いている姿をみることも珍しくないのです。
また、そんな方々を見ていても、特別なトレーニングの成果で鍛え抜かれた筋肉の持ち主でもないようです。
それでは、どうやって体系や年齢的なものをカバーしているのでしょうか?気になりますよね。
ここでは、フィジカル的に不利な男性介護士が働くための職場の選び方や、実際に介護をする上で知っておきたい知識や、ちょっとしたコツについてお話します。今後の参考にしていただけたらと思います。
施設別どれくらい体力って必要なのランキング!
日本中にたくさんある高齢者の介護施設ですが、「施設」とひとくくりにされて話されることが多いですよね。しかし、施設が変われば、介護量も変わります。
ここでは、施設の種類別で必要な体力がどれくらい違うのかについてお話します。
体力といっても、重たいものを持つために必要な「筋力」と、長時間動き続ける「持久力」の二つを「体力」として、話を進めていきたいと思います。
第1位 最も体力が必要な「特別養護老人ホーム」(特養)
要介護3以上で入居が可能な施設です。また、終身(看取り・ターミナル)で入居が可能なので、必然的に介護度が高いです。若い介護士が多いのですが、体力的な事情が理由です。
介護施設で働いていると「そろそろ特養だよね。」という言葉を聞くことがあるのですが「介護量が増えてきた」=「そろそろ特養」といった図式は、介護士ならだれしも持っている考えなのではないでしょうか?
実際、入浴にかんしても、特浴(機械浴)でなければ入浴ができない方も多いですし、起床介助や就寝介助など、移乗回数の多い時間帯の勤務では体力がものをいいます。
夜勤の日、全員の就寝介助が済んだころには疲労困憊で汗だく。ここから仕事が終わるまで12時間もあると考えただけで、気が遠くなりそうな瞬間を、特養で働く介護士のみなさんは経験されているはずです。
終身利用が可能なので、ターミナルケアにたずさわります。体力的な面にあわせて精神的な面でのダメージを受けることもあるのが特養です。
精神面でのダメージは食欲の減退などにつながり、直接的に体力へも影響しますので、心身ともにタフでなければ勤まりません。
第2位「有料老人ホーム」
自立の方でも入居が可能です。そのため施設全体の平均介護度は低くなりますが、介護度1~5の方が平均的に入居されています。
ご自分で車を運転してランチに出かけられる方もいれば、寝たきりの方もいるということです。
しかし、自立の方はそれほど多い訳ではありませんし、施設によって平均介護度に違いはあるものの、介助を必要とされる方が多くいらっしゃることには違いありません。
また、入居者様は数十万円~数千万円と高額な入居一時金を支払って、比較的広めの個室に入居されます。そのため、次のケアに向かうための移動距離も長くなり、持久力も必要になってきます。
2階の方の介助のあとに、4階の方の介助に向かうことも日常的にあります。いつ来るかわからないエレベーターを待っていては仕事が終わらないと思えば、階段を駆け上がったり、駆け下りたりといったこともあります。
第3位「介護老人保健施設」
要介護1以上の方が入居可能です。施設によっての違いはありますが、平均介護度3~3.5程度くらいです。
老健は「在宅復帰」を目指す施設ですから、残存機能を活かすことが最大の目標となります。そのため、時間がかかってもできる事は、ご自分でやっていただくというスタンスをとります。
そのため、上位2施設に比べると、職員の全面的な体力勝負となるような介助は少なめです。
しかし、最近では、老健なのか特養なのかわからないといった施設も増えているようです。
第4位「グループホーム」
認知症と診断されなければ入居ができないのがグループホームです。要支援2から入居が可能です。実は、施設系の中では断トツで、職員の年齢層が高いのがグループホームなんですよ。
入居者様が5人以上9人以下と定員が少なく建物自体もこじんまりしていて、移動距離も少なく済みます。大型施設からグループホームへ転職した人が一番初めに驚くのが移動距離の短さです。その分体力的にも楽になります。
しかし、入居者様の人数が少ないからといって仕事量が減るという考えは当てはまりません。なぜなら、入居者様の人数に対しての職員しかいませんし、グループホームの特徴として介護職員が調理もしますから、意外とバタバタとしていることが多いです。
ただ、調理も介護職員がするということは、力仕事ではない業務をする時間もあるということです。
第5位「訪問介護」
訪問介護には、大きく分けて「生活支援」と「身体介助」という仕事があります。
生活支援では、ご自宅の掃除をしたり、洗濯をすることもあるのです。また、通院同行をすることもありますから、常に力を必要とする身体的な介助ばかりではないということです。
ただし、訪問介護は地域によって違いはありますが、たとえば都内近郊ですと、利用者様のご自宅からご自宅までは自転車での移動となります。
次のお宅への到着時間は決まっていますから、のんびり自転車をこいでいる暇もありません。移動中の体力の消耗は避けられません。特に夏の暑い時期になると、熱中症など自分の体調管理も大切になってきます。
また、先ほどグループホームで働く職員の年齢層が高いとお話させていただきましたが、訪問介護も職員の年齢層が高いです。
60~70代になっても活躍できる場があるのも訪問介護の特徴です。
介護技術は体力をカバーする
ここまで、介護職と体力の話をしてきましたが、ここでどんでん返しな話をさせてください。
「体力勝負」「重労働」などの言葉ばかりがクローズアップされがちな介護職ですが、実は、力ではなく技術がものをいう職業です。体力のなさは、技術でいくらでもおぎなえるのです。
だから、小柄な女性や60代や70代の方でも介護士として長く活躍できるのです。
もちろん、ある程度の体力は必要ですが自然についてくるものですし、その程度の体力で十分なのです。体格も関係ありません。要するにテクニックなのです。
介護技術をマスターすべし!
みなさんは、ボディメカニクスという言葉を聞いたことがありますか?人の体の動きや力学を上手く利用する方法なのですが、これをマスターすれば、最小限の力で介護の負担を減らすことができます。
具体的に介護の現場で利用できるボディメカニクスには、どのようなものがあるのでしょうか?
- 両足を肩幅の広さに開き、腰を下ろして自分の重心を低くする
- 移乗時は、相手と自分ができるだけ密着するようにする
- テコの原理を応用する
上記のほかにも、座っている方に立っていただくときには、少し足を後方に引き気味にしてお辞儀をするように頭を倒してもらうと立ちやすいや、利用者様に手や足を縮めてもらいコンパクトになっていただくと介助しやすいなどがあります。
本来の体の自然な動きを崩さないことで、介護士の力100%の介助ではなく、利用者様と介護士の二人の力を合わせて100%にするのです。
残存機能にも働きかけることにもなりますし、筋力のない小柄な介護士でも大きな方を移乗できるということになるのです。
働きながら介護技術を身につけられる施設がある
そんな素晴らしいボディメカニクスですから、ぜひ習得したいものですよね。それでは、どこで教えてもらえるのでしょうか?
講習会を探してみるものいいですが、ぜひ理学療法士のいる職場で働いてみることをおすすめします。理学療法士は、通称PT(ピーティー)と呼ばれます。
PTは、介護老人保健施設や特別養護老人ホームで働いていています。特別養護老人ホームでは、理学療法士という呼ばれ方ではなく、機能訓練指導員と呼ばれています。
PTのいる職場では、よく職員向けの勉強会を開催してくれます。それ以外にも、日々の介護で困っていることがあればアドバイスしてくれる力強い味方です。
私も、初めてボディメカニクスという言葉を聞いたのは、老健で働いているときに参加した職員向け勉強会でした。体の仕組みを学ぶことで、日々介助にあたるときの無駄な力が必要なくなったのです。
また、老健や特養のいいところは、ほかの職員の介助をみることができるので、お互いにいいところは盗んだり教え合ったりすることができます。日々の業務の中で学びが多いのは、大型の施設です。
訪問介護になると、ひとりで利用者様のお宅に行く訳ですから、誰かの介助方法を見る機会は皆無。そのため、上手な人の介助をみて学ぶことはできません。
まとめ
力がある人・体力がある人など、もともと体格や体力的に有利な人はいます。実際、女性より男性の方が力がある場合は多いです。
しかし、力任せの仕事をしていれば、必ずいつか無理がきて体を壊してしまいます。
それでは、介護職を長く続けられなくなってしまいますし、何より体を痛めてしまってはあなたのためになりません。
力に自信のない介護職の方!ぜひボディメカニクス勉強してみてください。あなたの介護が楽になることをお約束します。