1.デイサービス(通所介護)の概要と目的
デイサービス(通所介護)は、公的介護保険サービスのひとつです。通所介護の施設で、食事や入浴などの日常生活上の支援、生活機能向上のための機能訓練や口腔機能向上サービスなどを日帰りで提供するもので、利用者の自宅から施設までの送迎サービスも行います。
このサービスは、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、自宅にこもりきりの利用者の孤立感の解消や心身機能の維持、家族の介護の負担軽減などを目的として実施されるものです。
デイサービスの事業所は、全国に4万件以上あります。これは、日本中のセブンイレブンとファミリーマートの店舗数を足し合わせた数より多い数字です。そのため、少し意識して周囲をみると、家の近所にデイサービスの事業所があったり、デイサービスの送迎車が頻繁に行き交っていることに気づくことでしょう。
2.カジノ、ゴルフ、フィットネス?おもしろいデイサービスの実態
デイサービスと聞くと、高齢者版の幼稚園を思い描く人が多いかもしれません。朝になると送迎バスが迎えに来て、日中は施設の中でレクリエーションをしたり、食事や入浴をしたりして過ごし、夕方になるとまた送迎バスが自宅まで送り届けてくれます。
施設の中で提供されるサービスは、体操に、歌に、お絵かきにと、これまた幼稚園のようであり、必ずしも楽しそうな場所というイメージは思い描けないかもしれません。自分が高齢者になったときデイサービスに行きたいかと問われると、おそらく答えに窮する人が多いでしょう。
では、世の中には、もっとおもしろいデイサービスはないのでしょうか。ここでは、要介護者ではなくとも思わず通いたくなるようなおもしろいサービスを展開しているデイサービスをいくつかご紹介しましょう。
カジノが楽しめる「デイサービス ラスベガス」
カジノが楽しめる各地で人気のデイサービスが「デイサービス ラスベガス(http://las-vegas.jp/)」です。
施設内には、ルーレットなどの本格的なカジノの設備が備えられ、施設内のみで通用する通貨を賭けて楽しむことができます。自ら考え判断し、計算や記憶を行うためにカジノの仕組みを導入し、ゲーミングの要素を取り入れることで、身体機能向上と合わせて、認知機能の向上と脳機能の活性化を図っているそうです。
また、送迎サービスについても、介護事業者名が記載されたワンボックスカーが自宅前まで迎えに来ることを嫌う利用者に配慮し、一見デイサービスの送迎車とは思えない黒塗の送迎車を使用するなど、趣向を凝らしています。
村内で仮想通貨が使える!?夢のみずうみ村
その特徴的なシステムから、利用者が毎日通うのを楽しみにしているというデイサービスが、山口県、千葉県等で展開する「夢のみずうみ村(http://www.yumenomizuumi.com/index.html)」です。
このデイサービスでは、利用者の自己選択方式を採っており、施設に訪れた利用者はまず、数多あるサービスメニューの書かれたマグネットカードの中から好きなものを選び、一日のスケジュールを決めていきます。選べるサービスは、料理教室、陶芸、カラオケ、パソコン、カジノ、パンづくりなど、実に多様です。
更に特徴的なのが、「ユーメ」という施設内で使用できる村内通貨です。サービスを受ける場合はユーメを支払う一方で、リハビリ目標を達成したり、食器を洗うなどの仕事(手伝い)をすると、ユーメを稼げる仕組みです。また、ユーメが少なくなると「夢村銀行」で融資を受けられ、毎日夕方から開かれるカジノで一発逆転にチャレンジすることもできます。
自由に買い物が楽しめる!エムダブルエス日高
日本最大級の次世代型デイサービスを標榜する「エムダブルエス日高(https://mws-hidaka.jp/publics/index/80/)」のサービスも興味深い事業者の一つです。
定員330名という巨大なスケールとサービスごとに区切られた多数のエリアで構成される施設は、まるでショッピングモールのようです。「夢のみずうみ村」と同様、自己選択方式を採用しており、シミュレーションゴルフ、麻雀、トレーニングジム、カフェなどの多様なサービスから、実施するサービスを利用者自ら選びます。
始めに当日のスケジュールをタッチパネル式のシステムで入力し、サービス利用時にはバーコードリーダーを使って情報をデータ管理することで、巨大な施設の中で、利用者がどこでどのサービスを受けているかをタイムリーに捕捉していることが特徴的です。
また、近隣のスーパーマーケットと提携して提供している、リハビリをしながら買い物ができる「買い物リハビリ」サービスは、利用者や家族に嬉しいサービスです。
3.おもしろいデイサービスに対する評価と規制の動向
このようなデイサービスは、利用する要介護者やその家族にとって大変有意義であり、他のデイサービスと違って、施設内には、利用者の活気や笑顔が溢れています。当然、そこで働く従業員も生き生きと楽しく働いている印象が強いです。
一方で、近年、財源(保険料と税金)が逼迫し、要介護者の自立支援を目指す介護保険制度の趣旨から考えると、このようなサービスは少々行き過ぎているのではないかと評価する立場の人も存在します。
兵庫県神戸市は、2015年にカジノ型デイサービス施設を条例で規制し、カジノ型デイサービス施設の運営者を事業者として指定しないようにしました。理由は、高齢者の自立を支援する介護保険法の趣旨に沿わないと判断したことと、疑似通貨などを使用してカジノをすることで射幸心をそそり依存性が強くなる恐れがあると判断したことからです。
また、買い物を通じて機能訓練を行う仕組みが構築されており、目的がリハビリそのものであれば問題ないかもしれませんが、「買い物をするためにデイサービスに通う」「買い物が主目的でデイサービスの送迎を利用する」ことは明らかに制度趣旨に反すると考えられ、サービス内容によっては、自治体が指導や規制を行うケースもあるかもしれません。
ここに、利用者本位のサービスを追求することと、介護保険制度の目的を逸脱しないよう配慮することとのバランスを考えなければいけない難しさがあるのです。
4.まとめ
このように、介護保険制度の目的を逸脱しないようルールを順守しつつ、利用者が殺到するような面白いサービスを志向する会社はたくさんあります。そして、そのような施設では、毎日、高齢者の笑顔と活力が溢れており、そこで働く従業員にとっても非常に魅力的な環境であると言えます。
介護業界で仕事をするうえでは、このような観点から職場選びをしてみるのも良いかもしれません。