介護士の職業病ともいわれる腰痛。介護士と腰痛は切っても切れない関係ですよね。朝ベッドから起き上がっても、トイレまで腰を曲げながら向かう人や、ソファーから立ち上がっても、しばらく腰を伸ばせないなんて人いませんか?
特に、これから冬に向かって辛い季節になりますよね。
そんな多くの介護士が抱えている腰痛問題ですが「介護士の腰痛に労災はおりない」と聞いたことがある人いませんか?
本当に介護士の腰痛には労災がおりないのでしょうか?
たしかに、腰痛で悩んでいる介護士はたくさんいるのに、労災認定がおりて治療している介護士の話を聞くことはあまりありません。
しかし、心配しないでください。介護士の腰痛にも労災がおりるケースはあるんですよ。
今回は、介護士の腰痛に労災がおりるケース・おりないケースについて。そして、労災がおりたときの保証などについてお話します。
労災が認定される腰痛はこの2つ!
厚生労働省は、労災認定できる腰痛なのか?そうでないのか?の判断規定を設けています。そして、労災がおりる腰痛はこの2つです。
災害性の原因による腰痛
明らかに仕事中の出来事が原因での腰痛です。仕事中に急激な衝撃を受けたなど「あのときの、あれが原因です。」と明確に原因を突き止められる腰痛。外傷が原因の腰痛のほか、筋肉等が損傷したことが原因の腰痛も含みます。
もう一つ、仕事中に受けた衝撃が既往歴や基礎疾患として持っている腰痛を著しく悪化させた場合もあてはまります。
災害性の原因によらない腰痛
仕事中、突発的に起きた「あのときの、あれだ!」と明確に原因を突き止められない腰痛。重量物などを取り扱ったり、腰へ負担がかかる作業が原因で起きた腰痛に認められるものです。日々の仕事の負担が少しずつ影響していき、腰痛の原因になったもの。
こちらの災害性の原因によらない腰痛は、さらに2つに分けられます。
筋肉等の疲労を原因とした腰痛
- 約20㎏以上重量物や重量の違うものを、繰り返し中腰で取り扱う仕事
- 毎日数時間程度、きわめて腰にとって不自然な姿勢で行う仕事
- 長時間立ち上がることができず、同じ姿勢をとる仕事
- 継続して腰に大きな振動を受ける仕事
骨の変化を原因とした腰痛
- 約30㎏以上の重量物を、労働時間の1/3程度以上取り扱う仕事
- 約20㎏以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う仕事
となっています。しかし、骨の変形は加齢とともに上記の仕事についていなくても起こりうることなので、通常の加齢による骨の変形ではないことを明らかにする必要があります。
ぎっくり腰はどっちに当てはまるの?
実は、ぎっくり腰については厚生労働省 腰痛の労災認定の中で労災対象にはならないと書かれています。オドロキですよね。
「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」が組み合わさることでぎっくり腰になるようなものなのに、労災が認められないなんて、納得できないと思うのは私だけでしょうか。
しかし、資料を読み進めると、ぎっくり腰でも認められるケースがあるとも書かれています。
持ち上げる重量物が予想に反して、重かったり、逆に軽かったりする場合や、不適当な姿勢で重量物を持ち上げた場合のように、突発的で急激な強い力が腰に異常に作用したことにより生じた腰痛
これって、典型的なぎっくり腰のパターンですよね…。
また、名古屋労災職業病研究会でも、ぎっくり腰が補償の対象になることもあるといっています。
「ぎっくり腰」は、一般的には漸次良くなって行くものであるが、発症直後に椎間板ヘルニアを発症することもあるので、時には災害性の原因による腰痛として補償の対象となる場合もあるとされています。
引用 名古屋労災職業病研究会
これらのことから分かるように、定規で線を引くように判断されるのではなく、ケースバイケースであるということがわかりますよね。
大切なことは、自分の判断で労災がおりるのかどうかを決めないということではないでしょうか。
あなたの腰痛に労災はおりる?おりない?
先ほどお話ししたとおり、労災がおりるか?おりないか?はケースバイケースであることがわかりました。
それでは、あなたの腰痛に労災はおりるのか?になりますが、まず最初にその腰痛は...
- 仕事が原因なのか?
- プライベートが原因なのか?
- 加齢が原因なのか?
を明確にする必要があります。
これはとても難しいです。なぜなら、私たちの体は一つ。仕事はプライベートに影響しますし、プライベートは仕事に影響します。そして、日々加齢と戦っています。
慢性的な疲労の蓄積で根本的な原因を突き止めることが難しいのが介護士の腰痛です。また「災害性の原因によらない腰痛」の項目を読んでみると、介護士の仕事が当てはまると言い切るには、いまひとつ決め手に足りない気がします。
労災申請をする
そうはいっても泣き寝入りする必要はありません。あなたの腰痛を労災にしたいと決めたなら、労災申請しましょう。
それでは何から始めればよいのでしょうか?
ポイント
- 会社に労災の申請をしたいことを伝える
- 労働基準監督署に必要書類を提出する
上記をあなた、もしくは会社が行います。スムーズにいくと1ヵ月ほどで労災認定されます。認定されるかどうかの重要なポイントは、仕事と腰痛の因果関係です。
労働災害によって負傷した場合などには、労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出することにより、労働基準監督署において必要な調査を行い、保険給付が受けられます。
しかし、介護士の腰痛の場合、仕事と腰痛の因果関係の判断が難しい場合が多く、結果として労災認定されないケースもあります。
実際に労災認定された事例
私の周りで、今までに労災認定された腰痛は2つ。
事例1
トイレ介助中に暴れだした認知症の方が、転倒しそうになったため支えた拍子に腰に激痛。結果的に背骨の圧迫骨折と診断され労災認定。
事例2
歩行不安定な認知症の方が、突然小走りになったので慌てて追いかけたが間に合わず一緒に転倒。その際、自分が下敷きになってしまいそのまま動けなくなる。結果的に骨盤骨折と診断され労災認定。
なかなかハードですよね。そして、労災はおりました。
パートやアルバイトでも労災はおります
労災は、雇用形態にかかわらず申請できます。パート・アルバイトの方でも大丈夫ですよ。
けど、会社と手続きを取った覚えもないし、雇用保険のように給料からも引かれていないと心配する方もいるかもしれませんね。けど、大丈夫です。労災は会社単位で加入するものなので、私たち労働者の給料から雇用保険のように天引きされるようなものではありません。
労災がおりた場合の補償内容
無事に労災がおりた場合の補償内容についてです。治療費・薬代は全額でます。労災指定病院への通院が原則となりますが、自宅の近くにない場合は、指定病院以外でも大丈夫です。
療養した医療機関が労災保険指定医療機関の場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出してください。請求書は医療機関を経由して労働基準監督署長に提出されます。このとき、療養費を支払う必要はありません。
療養した医療機関が労災保険指定医療機関でない場合には、一旦療養費を立て替えて支払ってください。その後「療養補償給付たる療養の費用請求書」を、直接、労働基準監督署長に提出すると、その費用が支払われます。
仕事を休んでいる間の給料の保証もあります。
労働災害により休業した場合には、第4日目から休業補償給付が支給されます。「休業補償給付支給請求書」を労働基準監督署長に提出してください。
給料の100%は出ませんが80%が支給されますよ。
休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業(補償)給付=60%+休業特別支給金=20%)が支給されます。
なお、所定労働時間の一部について労働した場合には、その日の給付基礎日額から実働に対して支払われる賃金の額を控除した額の80%(60%+20%)に当たる額が支給されます。
休業補償給付は、第4日目から支給されます。3日目までは労災から支給されません。しかし、会社が行うことになっています。
休業4日未満の労働災害については、労災保険によってではなく、使用者が労働者に対し、休業補償を行わなければならないことになっています。
しかし、会社側が渋って手続きを取ろうとしない場合があります。そんなときは、労働基準監督署に相談してください。
労災保険相談ダイヤル
受付時間 | 月~金 9:00~17:00(土・日・祝日、年末年始は休み) |
電話番号 | 0570-006031 |
URL |
労働条件相談ほっとライン
受付時間 | 平日:午後17時~22時/土日:午前9時~21時※ 年末・年始(12月29日~1月3日まで)は除く |
電話番号 | 0120-811-610(はい!ろうどう)※携帯電話・PHSからも利用可能 |
URL |
退職しても支給は続きます
労災は、完治・寛解・治癒、または症状が固定するまで支給されます。これは、在職・退職に関係ありません。労災給付を受けている間に退職したとしても、変わらず給付を受けられるということです。
労災がダメな場合は傷病手当
労災がダメだったとしてもあきらめないでください。傷病手当金といって、病気やケガで十分な給料がもらえない場合に最長で1年半支給される手当があります。
この傷病手当金と労災を同時にもらうことはできません。また、傷病手当金は、医療費までをまかなってくれません。
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
腰痛におすすめの予防策!
腰痛は10%の人しか完治しないといわれています。ということは、90%の人は今後も仲良く付き合っていくしかないということです。コルセットや骨盤ベルトといった基本的な予防策ではなく、今回はそれ以外の私が個人的におすすめの予防策をお伝えしますね!
絶対王者ナンバー1!貼るカイロ!
私が実証済みの腰痛へのおすすめ予防策は、ずばり貼るカイロ
とても原始的な方法ですが、腰を温めると全然違います。夏の暑い時期には不向きですが、これからの季節に絶対おすすめです!
貼るカイロは、ぜひ箱買いを!私は肌着に貼り付けて、ちょうど腰の位置にカイロがくるように使用しています。低温火傷には気を付けてください。
おしゃれはあきらめてスニーカー!
特に、都内近郊にお住まいの方は、駅まで・駅からなどなど歩くことが多いので、スニーカーをおすすめします。今は、かわいいスニーカーが多いので、愛用してみてください。
要するに、ヒールがない靴ということなのですが、バレエシューズのようなぺったんこ靴の場合、クッション性に優れていないため歩くときの腰への衝撃がスニーカーにくらべて強いです。一択でスニーカーをおすすめします。
プライベートを充実させる!
仕事が忙しくて、プライベートどころじゃない!とは思うのですが、プライベートが充実していると精神面での安定が図れます。腰痛の原因には心的要因も関係していることがわかっていますから、ぜひプライベートにも目を向けてみてください。
私の場合、ホットヨガに通っています。体が柔らかいとケガの予防にもなりますよね。そして、シフトで動く介護士は、平日の日中など混んでない時間帯に通えるメリットもありますよ。
現場で起きるのは腰痛だけじゃない!
介護の現場は、本当に何が起きるかわからないところです。ビックリすることから、ほっこりすることまでいろいろです。だからやめられないのが介護士という仕事でもありますよね。
それでは、現場で起きる腰痛以外の「これって労災?」とも思われるような事例をお伝えします。以下は、私が実際に体験したことや、同僚の身に降りかかった業務中の出来事です。(フィクションです。)
しかし、どれも労災としての申請をすることはありませんでした。理由としては、知識不足が原因だったと思います。また、どれも施設側から労災の申請についての話はありませんでした。
かじられて歯型がのこった20代の女性介護士
オムツ交換中、認知症の入居者様にユニフォームを引っ張られているうちに胸元のボタンも外れてしまう状態に。そのまま胸元をかじられました。歯形が残るといった程度ではなく出血もしました。
その場で消毒など処置をしましたが、2年経っても歯形は残ったままでした。病院に通ったとしても数日程度の傷だったと思いますし、結果的にも病院には行きませんでしたが、感染症などの危険性もあり怖い話です。
何より、体に一生残る傷跡ができました。
顔面を平手打ちされて眼鏡がぐっしゃり!
やはりこれもオムツ交換中、フレームなしの眼鏡をかけていた同僚が、認知症の入居者様に顔面を平手打ちされ、眼鏡がぐっしゃりと壊れました。その眼鏡で顔に傷もおいました。
やはり、病院には行きませんでしたが、通院費が無料になるなら病院へ行ったのではないかと思います。
石を投げられ避けたら足をひねった
これは私です。無理やり入居させられた認知症の女性。車いすで家に帰るといいます。気が済むまでやっていただこうと思い、外までついていきました。
田舎の舗装もされていない道路だったのですが、その女性大きな石を拾って、私めがけて投げつけてきました。避けるまでは良かったのですが、足首をひねってしまいました。
病院にも行かず自宅で湿布対応しましたが、労災となれば通院はしたと思います。
まとめ
体を張った業務が多い介護士という仕事。腰痛の完治は難しいまでも、上手く付き合っていくことが大切になりますし、必要に応じて国の制度を利用することで、生活の保障をしながら治療に専念できる環境を整えることも可能です。
しっかりと下調べをすることや、わからないことはそのままにせず相談機関に相談して、手続きを上手に進めてくださいね。