「介護士の職業病といえば腰痛です。」この言葉よく耳にしますよね。そして、これを聞いてもまったく違和感を感じません。実際、私の周囲の介護士なかまを見ていても腰痛持ちは多いですし、私自信も腰痛持ちの介護士の一人です。
実際、介護の仕事は腰に負担がかかる姿勢を多くとります。厚生労働省の介護労働の現状調べでは、腰痛や体力への不安があると答えた介護士が31.3%。身体的な不安を抱えて仕事をしている介護士が多いことがわかります。
腰痛は私生活にも大きな影響を与えますし、加齢とともに痛みへの不安も大きくなっていくもの。そんな不安を抱えながら働き続けることで精神面にまで悪影響が及んでしまう可能性もでてきます。
しかし、介護士という仕事はやりがいを感じる職業でもあり、腰痛があっても可能な限り続けていきたいと考えている人も少なくありません。
そこで今回は、介護士として長く働き続けるためには、どうやって腰痛と上手く付き合っていけばよいのか?についてお話ししたいと思います。
職業病とあきらめる?介護士の腰痛率ってどれくらい
腰痛持ちの介護士は、なんと57.5%~78.9%いるというデータがあります。これでは「介護士の職業病といえば腰痛です。」という言葉が生まれても不思議ではありません。
実際、私も介護士になってから4年目くらいで腰痛を発症。2度のぎっくり腰を経験し、最後は椎間板ヘルニアと診断を受けました。
1度目のぎっくり腰は、2週間経っても通常の生活ができないほどでした。しばらくは寝返りも打てませんでしたね。今になれば笑い話ですが、自力で体位交換をする方法まで考え出しました。(自分でズボンを引っ張って左右に自力体交するのです。)
2度目は夜勤中でした。どうにもこうにもならずやっとの思いで朝を迎えましたよ。他の階の同僚にお願いして、入居者様全員に朝まで間に合う大きい尿取りパッドをあててもらい早番を待ちました。どうしても歩かなければいけないときは、歩行器を借りて歩くほどの痛みでした。
最後には椎間板ヘルニアと診断され、手術といわれましたが手術は受けませんでした。それでも、そこから10年間は動けなくなるほどの痛みを経験することなく、現場で早・遅・日・夜勤すべてこなしていました。
今は、現場を離れていますが、たしかに腰痛持ちには変わりありません。典型的な腰痛持ちの介護士です。
介護業務を含む保健衛生業において発生する業務上疾病のうち、約8割を腰痛が占めています。
介護士が腰痛持ちになる理由
介護の現場では、腰に負担がかかる動作を多くとるために腰痛持ちの介護士が後を絶ちません。
- 人を抱え上げる作業
- 前傾姿勢や中腰での作業
- 腰をひねっての作業
これらは、介護士特有の仕事内容で腰への負担は大きいです。また、物ではなく人を抱えますから、万が一落としてしまってはいけないというストレスも大きいですよね。
認知症の方の介護になると、思いもよらない動きをされることもあります。叩かれそうになって避けたり、つばを吐かれたので避けたなど、突発的に自分でも予想していない方向へ身をかわさなければいけないこともあります。
腰痛に対する行政と現場のギャップ
腰痛に対しては、国をあげて重要施策を掲げていて、厚生労働省の配布する資料内には、このようなことが書かれています。
腰痛の発症を予防する意味から、利用者の抱きかかえは一人で行わないことが原則です。
これの意味するところは、移乗は一人で行わないのが原則ということですよね。しかし、現場を知っている私からすれば、どうしてもキレイ事にしか聞こえません。
もちろん、常に複数名の職員がいるような大型施設なら可能でしょうが、訪問介護は一人で利用者様のお宅に訪問しますし、グループホームのように小規模な場合は一人夜勤です。夜間のトイレ誘導、不穏な方の対応、起床介助までをたった一人でこなすのです。
民家改修のデイサービスなどは、複数名の職員がいてもハードの面から、トイレ介助にしても入浴介助にしても、上記の原則を守れないことがあります。なぜなら、もう一人の職員が介助に入るために立つだけのスペースがないこともあるからです。
現状、介護施設では「1人体制」通称「ワンオペ(ワンオペレーション)」が常態化しています。
引用元 みんなの介護
また、施設には国が定めている人員配置というものがあります。これに則って、一日に出勤する職員の数が決められるのですが「一人での移乗を行わないことが原則」を守っていては仕事が終わりません。昼休み返上になったり、残業が発生して「何時に帰れるかわからない。」なんてことになるでしょう。
それどころか、入浴できない入居者様がでてきたり、食事を食べさせてもらえない方まででてくるのではないでしょうか。介護の現場の忙しさは、それほどのものです。
介護機器(介護ロボット)
そのためにも、国は介護機器の導入を推奨しているのですが、介護ロボットONLINE独自のアンケートでは、約3割の施設で介護ロボットを導入しているとの結果が出ています。現場ベースでは、介護機器の導入が思うように進んでいないのが現状です。
それに比べ、海外の多くの国では、介護機器の導入が広く浸透しています。私の知り合いがオーストラリアで看護師をしていますが、患者様を抱える必要があるときは、全て介護機器を使用していると話していました。
日本でも経済産業省と厚生労働省が、ロボット介護機器開発に積極的に取り組んでいるようです。普及率については今後に期待したいですね。
参考 介護ロボットONLINE ロボット介護機器開発5ヵ年け計画について
自分の身は自分で守る!
介護機器の導入や二人介助の徹底など、理想と現実にあれこれいってばかりいても、目の前の現実は変わりません。すぐにでも、自分でできることに取り組むことが大切です。自分の身は自分で守ることを意識してみましょう。
作業スペースを十分に確保してから取りかかる
介助する際は、必要なスペースをしっかりと確保した上で行いましょう。狭いスペースでの介助は上半身の力だけで持ち上げたり、腕だけの力で支えたり、腰をひねったままで長時間介助するなど無理な姿勢を取ってしまうリスクが高まります。
起床・就寝介助や、入浴介助など介護士の気持ちに余裕がないバタバタとしたときは、スペース確保のひと手間を面倒臭いと思ってしまいがちですが、あなたの体を守るためです。面倒臭がらずに行ってください。
ノーリフト介護 スライディングボード・スライディングシートの活用
「ノーリフト介護」=「持ち上げない介護」ということなのですが、そうなると、介護機器の導入しかないと思う方も多いかもしれませんね。しかし、そんなことはないんですよ。
スライディングボードやスライディングシートを利用することで、移乗が何倍も楽になり腰への負担も少なくなります。
施設で福祉用具を購入する場合は、施設長などにお願いをしなければいけませんが、職員の健康維持に直接的につながりますから、現場全体からのお願いとして購入してもらいましょう。
コルセットやベルトの着用
これは、あなた自身ですぐにでも取り組めることのひとつです。
腰痛で整形外科に行くと、既製品のコルセットを処方してもらえますが、あれは動いているうちにどんどん上に上がってきてしまいますよね。私も持っていましたが、仕事中はまったく役に立ちませんでした。
その他に私の場合、椎間板ヘルニアで入院したときの退院時、自分専用に採寸をしてコルセットを作成しました。完全にオーダーメイドなので、動いているうちにずれていく心配もありませんでした。
このときは、6ヵ月間の傷病手当金をもらいながらの休職後ではありましたが、腰痛がありながらも同僚のヘルプなしで、すべての業務をオーダーメイドコルセット着用でこなせました。
他にも現在、業務に支障がでない程度の腰痛であれば、私のおすすめは、ゴム製の骨盤ベルトです。直接腰を固定するのではなくゴム製のベルトで骨盤を固定します。骨盤じゃなくて腰なんだよねと思うかもしれませんが、騙されたと思って一度試しみてください。なかなかいいですよ。
普段の生活でも気をつけよう!
定期的にマッサージや整体に通う人も多いのではないでしょうか?身体のメンテナンスはよいことですが、一時的に楽になっても根本から治っているわけではありませんから繰り返し通う必要があります。それに、一回にかかる費用も安くありませんよね。
そこで、ストレッチを習慣にすることをおすすめします。体が硬い人は疲れやすいともいわれるんですよ。
十分な睡眠,ストレッチング,運動習慣,および休日には疲労回復や気分転換等に心掛けるよう推奨している。
引用元 介護福祉士の腰痛に関する研究
毎日のストレッチで腰回りの筋肉を柔らかくすることは、痛みの軽減につなげることができます。お風呂にゆっくりと浸かり体を温めることも大切です。
体を柔らかくすることは、腰痛だけではなく全身の健康維持にもつながりますよ。しかし、急に無理な運動をしてはいけません。無理せず徐々に行うことが大切です。
ストレスが腰痛の原因になる
私は、体力的に辛いと感じていないのに、腰の調子が悪いなと思うことがたまにあります。そんなときは、決まって精神的に参っているときなんです。
精神的なダメージは腰の痛みに関係ないだろうと思われがちですが、心理的要因や精神的な緊張が腰痛の原因になることが、厚生労働省の調べでもわかっています。
職場の対人ストレスに代表される心理的・社会的要因や過度な精神的緊張なども腰痛の発症との関連で注目されています。
心と体どちらもが健康でなければ、不調としてどこかに現れるもの。そのためにも、職場での悩みは同僚や上司に、プライベートでの悩みは家族や友だちにと、相談するようにしましょう。
たまには、飲み会でパーッと発散するもの大切なことですよ。
労災や傷病手当について
腰痛が原因で退職を考えるほどの辛さだったとしても、ちょっと待ってください!
医療費や給料の保証を受けて、治療に専念できるかもしれません。しっかりと休養をとって復職することが可能なら、一旦しっかりと体をやすめて復職することをおすすめします。
労災
一般的に腰痛は労災はおりないと聞きますが、認められるケースは2つあります。
- 災害性の原因による腰痛
- 災害性の原因によらない腰痛
1の場合は、原因がハッキリしている腰痛です。たとえば、介助中に急に発生した腰痛。私が知っている限りでは、二名の元同僚が介助が原因での腰痛で労災がおりたのを知っています。
2の場合は、原因を突き止められないことが多く、労災がおりるまでにいろいろな調査や時間もかかります。そのためあきらめてしまう人が多です。
傷病手当
こちらは、連続で4日間休むと、初日から3日間を除いて4日目から傷病手当金を受けることができる健康保険の制度です。最長で1年6ヵ月受けることができます。労災が適用されなかった場合には、こちらを利用することができます。
まとめ
「介護士の職業病だから。」とあきらめて、腰痛を我慢しているのではなく、自分でできる知識や工夫を取りいれながら腰痛を緩和させ、介護士として長く働けることが一番理想的です。
辛いことも多い業界ですが、介護士でなければ味わえない素敵な時間を知ってしまうと、転職してもまた介護に戻って来る人も多くいると聞きます。
あなたの仕事はそんな素敵な仕事なのです。長く介護士と働き続けらるよう体のメンテナンスをしっかりしていけば、介護士という専門職として、長くキャリアをつんでいけるのです。あなたの体はあなたが守ってくださいね。