1.2040年までに日本の約半数の市町村が消滅する可能性がある?
約20年後には日本の市町村の半分が消滅する可能性がある。そう言われて、みなさんは信じられるでしょうか。
民間の有識者で構成される日本創成会議(座長は増田寛也元総務大臣)が2014年に発表した報告によれば、地方から都会への人口流出がこのまま続くと、20~39 歳の若年女性(9割以上の子供がこの層から生まれる)が2040年までに50%以上減少する市町村が全体の49.8%(全1800市町村のうち896市町村)に達すると推計されています。
これらの市町村は、人口構造上、いくら出生率が上がっても将来的には消滅するおそれが高いものとして「消滅可能性都市」と定義されています。
平成26年5月6日 日本創成会議・人口減少問題検討分科会 提言
『ストップ少子化・地方元気戦略』より
www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03.pdf
地域別にみると、最も消滅可能性都市が多い秋田県(95%以上)は大潟村を除く全市町村が「消滅可能性都市」であり、青森県(87.5%)、島根県(84.2%)が次に続きます。
一方で、最も消滅可能性都市の割合が低い都道府県は愛知県(10.1%)であり、地域格差は非常に大きいといえます。
平成26年5月6日 日本創成会議・人口減少問題検討分科会 提言資料2-1
『全国市区町村別「20~39歳女性」の将来推計人口』よりhttp://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_2_1.pdf
もちろん、この報告書でいう「消滅」とは、そこに住む人が忽然と姿を消したり、その土地が物理的に消滅することを示すものではなく、市町村という行政単位を保てなくなる可能性があるという意味です。
市町村単位を保てなくなるという事は、これまで行われてきた様々な福祉・行政サービスの機能が麻痺をすることになるので、私たちの生活に大きな影響を与えるであろうことは、容易に想像できると思います。
2.市町村格差は介護業界に大きな影響を及ぼす
このように、今後の日本は、少子高齢化と地方から都会への人口流出によって、市町村格差が広がっていくことが想定されます。そして、当然、この影響は介護業界にも及ぶものと考えられます。
介護保険制度は、創設された2000年当初から「地方分権の試金石」と言われてきました。
介護保険制度が、国が中央集権的に全国一律で運営するのではなく、市町村が保険者となり、地域住民の意見を十分尊重しながら、地域の実情に応じて必要なサービスを提供する仕組みとなっているためです。
保険者である市町村がその地域の介護保険事業に関する計画を策定し、その計画に基づいて保険料が徴収されるため、第1号被保険者(65歳以上の方)の保険料は地域によって異なりますし、介護保険財源を活用した市町村事業の実施内容も各市町村に委ねられています。
このように、介護保険制度は地域保険であり、保険者である各市町村が運営しているため、介護業界は市町村格差の拡大による影響を受けやすい業界であると言えるでしょう。
3.今後、介護業界で働くうえで留意すべきこと
それでは、介護業界で働くにあたり、具体的にどのような点に気を付ければよいのでしょうか。
前述のとおり、介護保険制度は地域保険であり、これはわかりやすく言えば、保険料が高い地域と低い地域、サービスが充実している地域と不足している地域など、地域差があるということです。そして、市町村格差が広がることは、この地域差が拡大することを意味します。
したがって、自分が働く地域の高齢化率や、高齢者数や労働者数が今後どのように推移していくかを把握してみると、その地域での介護事業の収益性・フィージビリティや、長期的な観点での繁忙期、閑散期が見えてくる可能性があります。
また、介護保険制度の運営は、実際に、市町村職員の手腕や市町村長の政策推進力による面も大きく、例えば、保険料が安く、先進的な取り組みを実施している市町村の背景として、キーマンとなる所謂スーパー公務員や名物市長がいたり、地域住民や地域の介護事業者との意見交換の場を設けて、意見を聞き入れる風土を醸成する工夫をしているようなケースもみられます。
したがって、自分が働く地域が、介護保険制度の運営上どのような取り組みをしているかを把握することで、介護事業の将来性、地域ニーズの特色などが見えてくる可能性があります。
介護保険制度に関する先進的な取り組みは、厚生労働省がホームページ等で先進事例として取り上げています。
各市町村がホームページ等で公表している資料や、介護保険事業計画などに目を通すことも、情報収集をするうえでは参考になるでしょう。
4.まとめ
本当に約20年後に日本の市町村の半分が消滅するのかどうかはわかりませんが、少なくとも、今後の少子高齢化、人口偏在の継続を前提とするならば、地域格差の拡大は不可避であるようにも思えます。
今後、介護業界で働くことを検討するにあたっては、こうした観点から、どのような地域でどのようなサービスを展開している事業者がよいのかを検討してみるのもよいかもしれません。