1.政府が進める「地域包括ケアシステム」とは
皆さんは「地域包括ケアシステム」という言葉を聞いたことがありますか。これは、簡単にいうと、少子高齢化対策として政府が推進している政策の一つです。
日本の人口のボリュームゾーンである団塊世代(1947年~1949年生まれの世代)が75歳以上となる2025年には、後期高齢者(75歳以上の高齢者)の増加や高齢者世帯の増加の影響によって、医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれています。
このような状況を踏まえ、政府は、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援・介護予防が包括的に確保される体制「地域包括ケアシステム」の構築を推進しているのです。
ただし、国をあげて少子高齢化対策を推進するといっても、高齢化の進展状況であったり、病院・介護施設の立地や規模等の医療・介護体制などは、その地域によってそれぞれ異なっているのが現状です。
そこで、「地域包括ケアシステム」では、国が全国一律で画一的に体制構築することを目指すのではなく、市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づいて、その地域の特性に応じて作り上げていくことを基本的な考え方としており、この点が大きな特徴といえます。
2.「地域包括ケアシステム」を意識した近年の介護保険法改正
では具体的にはどのように「地域包括ケアシステム」が推進されているのでしょうか。政府は、3年に1度の介護保険法改正において、この理念に基づいた改正を行っています。具体例として、2014年の法改正で創設された「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、「総合事業」と記載)について、考え方と概要を少しご紹介します。
「地域包括ケアシステム」を構築するうえで、考えなければならないことの一つに「介護人材不足」という課題があります。厚生労働省の推計によると、2025年には約37万7千人もの介護人材不足に陥ると見込まれています。
「地域包括ケアシステム」においては、医療や介護ニーズの増加を踏まえてサービスを充実させ、包括的な体制構築をしていく必要がある一方で、深刻な人材不足にも対応していかなければならないということです。
2014年の法改正では、このような課題を踏まえて「総合事業」という仕組みが創設されました。シニア層の増加に伴ってニーズが高まる医療・介護のサービスには、資格を持った専門的な人材が必要ですが、更に広い範囲でニーズが高まると想定される生活支援や介護予防のサービスについては、担い手が専門職に限定されず、NPOや地域住民等、実に多様な人材の参画が期待できます。
そこで、今後、増加が見込まれる生活支援や介護予防のニーズ対応するため、介護専門職に加え、ボランティア、NPO等の多様な主体が生活支援や介護予防のサービスを提供できる枠組みを構築することにより、「地域包括ケアシステム」の課題である「サービスの充実」と「人材確保」を一体的に解決しようという試みが「総合事業」なのです。
更に、「総合事業」では、シニア層が担い手として事業に参画することにより、大量の人材を確保するとともに、シニア自身の生きがいや介護予防に繋げることも狙いの一つとしています。
3.「地域包括ケアシステム」が介護業界に与える影響
このように、「地域包括ケアシステム」の理念は介護保険法改正の度に意識され、介護保険制度としてビルドインされることで、その推進が図られてきました。
この「地域包括ケアシステム」の理念に基づく介護保険法改正が介護業界に与える影響は大きく、介護業界で働く方にとっても2つの観点で有意義であるといえると思います。
1つ目は介護業界で働く人材と働き方が多様化することです。
今後、「地域包括ケアシステム」が構築されていくにつれ、介護や介護予防に伴う様々なニーズに応えるための多様なサービスが求められるとともに、「総合事業」に代表されるように、いわゆる介護の専門職以外の様々な人材が介護関連サービスの担い手として参画してくることになると考えられます。
様々な人材が様々な働き方で介護業界に参画することは、介護業界の活性化に繋がり、この業界で働く人にも少なからず良い影響をもたらすでしょう。
2つ目は多業種連携が推進されることです。「地域包括ケアシステム」が目指す、医療・介護・予防・住まい・生活支援・介護予防が包括的に確保される体制を実現するためには、それぞれの分野を担うプレイヤーが連携することが必要になります。実際に、介護保険法改正で、医療と介護の連携を推進する事業も創設されています。この多業種連携により、その分野単独ではなしえない新たな付加価値が生み出されるため、介護業界のプレゼンスも従来以上に高まることが期待されます。
4.まとめ
介護保険制度は、2025年という象徴的な年を睨みつつ、「地域包括ケアシステム」の理念に基づき進化を続けています。そして、この進化は介護業界で働く人にとって、有益な影響をもたらすでしょう。
これから、就職、転職を検討される方は、このように将来性が高い介護業界でキャリアを積むことを考えてみるのもよいかもしれません。