介護の仕事を始めるなら、長く介護士として働きたいですよね。
しかし、メディアでは介護士の離職率の高さがよく取り上げられます。
公益財団法人「介護労働安定センター」が公表した介護労働実態調査によると、2017年度の離職率は16.2%、3年以内に離職する介護士は35.2%です。
実際に、筆者は他職種の方に「介護士はすぐに辞めちゃうイメージ」と言われたことがあります。
本当に介護士として働いて大丈夫なのか不安になってしまいますよね。
なぜ、介護の離職率は高いのでしょうか。
原因は、辞めてしまう介護士なのか、多くの離職者を出してしまう経営者なのでしょうか。
これから、介護の道に進もうとしている人が知っておくべき離職率の原因と対策をご説明します。
知ってました?介護士不足は景気で変動しています
介護士の不足は、慢性的ではありますが変動しています。
2006年にアメリカで起きたサブプライムローン問題が発生した影響により、日本企業も一気に不景気になりました。
2008年には、リーマンショックが起こり、日本経済もあおりを受けてさらに不景気に。
多くの企業で大規模なリストラが行われ、再就職先として注目されたのが介護業界です。
今後、更に高齢化社会が進んでいくとされ、需要が高まる産業として多くのメディアが介護ブームをとりあげました。
しかし、アベノミクスの始動により景気が回復すると、他業種と比較して低賃金や重労働が目立つようになり、介護業界に流れる人はほとんどいなくなってしまったのです。
残念ですが介護士は、不景気になると人が集まり、景気が良くなると人が来ない職種なんですね。
なんでこんなにも介護業界は人を大切にしないのか?
少なくとも3年在籍して、介護福祉士までを取得しないと、くそ扱いです。
仕事も給料も全てにおいて。
それまでに辞めて行く人は皆、敗残者となるのです。引用元:みんなの介護
他の職種に比べても低賃金なくせに世間、利用者、利用者の家族すべてが何かあれば口をそろえて「プロなんだから!」と文句を言い全て、介護職員が悪いと決めつけていることが最大の原因!!
引用:みんなの介護
介護士が集まるSNSをのぞくと、介護士たちが待遇の悪さに不満を吐き出している投稿が見られます。
(すべての事業所が悪いわけではありません)
昭和20年代にスタートした社会福祉法人ですが、社会福祉法人制度がスタートした当初、介護は『求人を出せば誰かしら来る』と言われていました。
それでも人手不足なのは、入職しても定着せずに出ていってしまうから。
当初、新卒を採用する事業所も多くみられました。
しかし、新卒の介護士は、5~6年働くと20代後半頃に寿退社する➡また、新卒の求人を出す……。
これを繰り返せば、低賃金で雇う新卒が、結婚と同時に退職をするので、給与水準を低いまま維持できるんですね。
求人を出せば誰かしら来るから、優秀な人材育成や確保をしなくても人を集めることが出来ていました。
しかし、今や団塊世代に介護が必要になってくる時代。今の介護士の人数では到底まかないきれません。
日本の高齢化が進み、政府は急ピッチで介護士の育成や確保に力を入れていますが、追い付いていないのが現状です。
介護事業所は、人が育たず、ノウハウもないまま、年々増える高齢者の対応をしなくてはならないのです。
仕事が早い人ほど退職してしまう
筆者の勤めた事業所でも、残念ながら退職してしまう人は沢山いました。
中でも、辞めていくのは仕事が早い人。
人手不足の介護業界は、夜勤などは80人近くを介護士2~3人でコール対応、オムツ交換しなくてはなりません。
オムツ交換やコール対応の処理は、自然と早さを求めてしまいます。
「時間内にいかにオムツ交換を終わらせるか」
「あと30分で入浴をなんとしても終わらせる」
などですね。
中堅介護士なら一度は経験したことがあるでしょう。
時間に追われて効率を追い求めたあげく、「介護士はもういいかな」と燃え尽きて職場を去ってしまうのです。
3Kからの脱却!3大介護から『その人の心身に合った介護を』
これから介護士をスタートさせようとする方は
「汚い・きつい・給与が安いから介護士はみんな辞めていってしまうのでは」
「介護はトイレ・お風呂・食事のお手伝い」
このように思っている方も多くいるのではないでしょうか。
確かに、2000年代後半にテレビメディアでは、介護業界の過酷な労働環境のドキュメンタリー番組が話題となりました。
とくに給与の話題は、メディアでも取り上げられやすく「介護士は重労働だけれど、低賃金」という印象を根付かせてしまいました。
しかし、介護は『お風呂・排泄・食事』の3大介護から『その人の心身に合った介護を』提供する流れに変わってきています。
ポイント
たとえば、トイレが間に合わないから、全員オムツではなく、片麻痺や認知症の方でも、残存機能(※まだ動ける身体の箇所)を活かして時間帯でのトイレ誘導を行うなどのサービスに切り替わってきています。
先ほど、辞めてしまう介護士は仕事が早い人が多いとお伝えしましたが、これからの介護士は『その人の心身に合った介護』を見出すことが求められています。
100人いたら100人それぞれに違うサービスを行う必要があるのです。
スピードだけではないクリエイティブな介護士こそ、離職しない介護士なのです。
適材適所!タイプ別介護サービス
介護サービスと一言で言っても様々なサービスがあります。
サービスの内容によって介護士に求められるスキルは大きく変わります。
「介護士を始めたけれど思っていたより重労働ばかり」
「介護士なのにレクや工作の担当をさせられて重荷に感じる」
このように感じている人はもしかしたら、別の介護サービスが合っているのかもしれません。
このような「思っていたのと違う」を少しでも和らげるために介護サービスをタイプ別に分けてみてみましょう。
デイサービス
- 介護度1~3。自宅で生活している(できる)方の介護(要支援もあり)
- 最近はリハビリのサービス(機能訓練)がついているデイサービスが人気が高まっている
- 多くが9時~18時以内の勤務
- 20代から70代の介護士が多い
デイサービス介護士に求められるスキル
- 車の運転が必要
- レクリエーションが得意であること
- 家族、利用者へのコミュニケーション技術が求められる
訪問介護
- 介護度1~5まで幅広く対応。
- 利用者の自宅で1対1の介護
- 40代~70代の介護士が多い
訪問介護のヘルパーに求められるスキル
- レクリエーションは苦手でもOK
- 家族や利用者とのコミュニケーション力が必要
- 臨機応変に対応する力が必要(冷蔵庫にある材料で調理をするなどスマホを使って検索し実行できるかなど)
特別養護老人ホーム
- 介護度3~介護度5まで
- 個室・多床室対応
- 20代~50代の介護士が多い
特別養護老人ホームの介護士に求められるスキル
- レクリエーションは苦手でもOK
- 夜勤あり
- 入所者へのコミュニケーション力が必要
- 専門性を求める人が多い
介護士も経営者も今は時代に適応するために変化中
介護業界では、今日までの制度の流れや求められるスキルが、離職率に大きく影響しています。
経営側の問題
- 経営者の介護知識不足
- 介護士のマネジメント不足
- 労働に見合わない介護士の給与
介護士側の問題
- 他業種でうまくいかないから仕方なく介護をやっている
- とりあえず介護士をやってる(良い仕事がみつかったらいつでも転職したい)
全てが上記に当てはまるわけではありませんが、一昔前の日本の介護業界の流れからこのような傾向は存在します。
どちらが問題というよりも制度や時代の背景がこのような問題を生んでしまったという方が正しいでしょう。
今は、きたる超高齢化社会に向けて、経営者も介護士も変革している真っ最中なのです。
離職率問題に埋もれがち!人生の最期を豊かにする仕事=介護士
「自宅で最期を迎えたい」と思う高齢者は多いですよね。
しかし、自宅の環境問題や家族の都合もあります。とくに持病がある方は、服薬の管理やケアが必要になりますので、自分だけの力で自宅での生活は難しくなります。
一昔前までは、ある程度自宅で過ごせるうちは自宅で過ごし、病院のベッドで長い間、治療を受けて最期を迎える方が大半でした。
しかし、今では介護サービスの充実により、デイサービスやデイケア、特別養護老人ホームなどを利用する方が増えています。
高齢者の最期を迎える日までの時間は限られています。
その限られた時間を、介護士たちはレクレーションやケア、声掛けなどで豊かにします。
芸能人の島田洋七さんは、義母が介護施設に入所したときの経験を、インタビューでこう語られました。
「施設の人、介護士さんには非常に感謝してますよ。本当に大変で、ええかっこや見栄ではできない仕事。いつもありがとね…14年間、本当にそう思ってましたね」
引用元:リジョブ
介護士は、人生の最期を豊かにする仕事です。そうあるべきですが、介護士の仕事の魅力は人員不足や離職率問題に埋もれがちです。
今後の介護業界で求められる介護士を目指すことで、このお仕事の魅力に気付くでしょう。
そうすれば、あなたの抱く介護士に対する不安や悪いイメージは、必ず消えていきますよ。